(3)
***
リゼリはモノを、よく壊す。
特に仕事部屋。薬の調合の失敗でまあ大抵窓と窓ガラス、酷い時は一回の半地下の仕事部屋の上に当たる店とか、その上の彼女の寝室にも被害が及んだりする。
主に、壁…(罅割れ)。とか、これまた窓とか。
「男手、ほしいかも…。男手じゃなくても猫の手でもいいわ……」
(かと言って、別に従業員を増やすほど手が要るわけでもない。でも、店番とか居れば調合に集中できていいかもだけど…)
「悔しいけど、『何でも屋』で事が足りてる、のが事実なのよね…」
都合のいい、本当、都合のいい店なのよね~。
人員派遣もやっているし。
(店番雇うだけのお金なしいしね…)
『翡翠屋』の帳簿が火の車状態をカルバ商店の息子ならばきっとルイス伝えで知っていかもしれない。そう思うとマルスの台詞にムカムカしてきたリゼリは罐を蹴り付けた。
「マルス~~~!!いつか目に物見せてやるっ」
日が沈み、空に闇が広がる。
カンテラに火を灯し、一人、罐の掃除に没頭する。炭取りで、強引に詰まった炭をかき出す。
「意地でも直して見せるわっ」
ぐう~…。
いつもならば、夕食はとっくに取っていてじっくりと薬学の本を読んでいる時間帯。
頭の中でマルスに対する呪いの言葉を連呼する。
(フラレロ。フラレロ)
ぐう~~…。
「くう~~~っ」
全てが不幸に感じる。
空腹で力が出ず、ご飯を食べてしまえば罐の掃除などしたくなくなる。
公衆浴場でもいいや…と。
空腹の音は、さらに空腹を引き寄せるような気がする。
(お…、おなか…へった…っ)
「お風呂のためだもん!!一日のリフレッシュ。女の子なら、綺麗でいたいって思うもん!公衆浴場でジャガイモのごとくイモ洗いで身体を洗うのが耐えられないわ!!」
昔、パン屋の女将に連れたれて行った際のトラウマがひしひしと蘇る。
「もう、二度とあんなイモ洗いはお断りよ!!」
公衆浴場のイモ洗い状態も嫌いだが、もっと嫌いなのは――
(公衆浴場なんて、絶対『めんどくさい』事になるわっ…)
ぎゅっと、左腕を右手で握りしめる。
左の袖口からは手首に巻かれた包帯のような布がかすかに見えた。
唇をかみしめ、がしがしと不安を振り切るように罐を今度はタワシで強く磨く。
それから、2時間後。ふらふらになりながら煤まみれた手で、罐の中に薪を入れる。
「これで、お湯が沸く……はず。」
空腹と、予定外の肉体労働で足がふらつく。
それから、30分後。脱力と共にまったく沸かない水の張った湯船を眺める。
「……無意味な行動だったわ…」
(この水でいいから、ざばっと洗おうかなぁ……)
「初夏でも、町の水って冷たいのよね…」
「公衆浴場…行こうか…」
肩を落としてふらつく身体で浴室から出る。
「まあ、この時間なら空いてそうだし」
思い立つと、リゼリの行動は早い。
着替えと、タオルと…、呟きながら手際よくかばんに詰め込んで、暗くなった町の通りを抜ける。
宿場の方は賑わっているようだが、彼女の店の通りは静かだ。
夜の8時ともなれば店を閉め、各々の時間を過ごす。
今はその時刻からゆうに3時間ほど経っている。
現在の時刻は、午後11時過ぎ。
夜更け―こんな時間で痴漢にあったら自業自得だろうと言われそうだけど、この町は“治安”だけは良い町で酔っ払いの乱闘はあったとしても殺傷事件や変質者などの事件はこの何十年町では起こっていない。それに、痴漢など居ても薬師には薬師なりの痴漢撃退方法がある。
催涙剤、催眠剤、痺れ薬、などなど。
殺傷能力が低ければ、正当防衛が適用される。
ちなみに、公衆浴場の営業時間は―――午後十時まで。
公衆浴場の前に着き『本日の営業は終了いたしました』と言う看板を見た瞬間、リゼリは正拳突きで看板を殴る。
「ふざけんなぁぁぁ!!あたしをお風呂にいれさせろぉぉぉ」
この際、イモ洗いでもいいから!!
(うう。水風呂ですか…マルス、明日絶対下剤盛ってやるっ)
そもそも、あの男とはどうも気が合わない。
リゼリは、髪をかき上げて溜息を付く。
「……」
ふと、町の外―――郊外に視線が行く。
「確か、泉。あそこなら、地脈の影響で若干温水だったような……」
夏場に、良く子供たちの水の遊び場になっている。
(夜……だし、一人って……)
怖いかも。
ポツリと胸の中で呟いて、
籠の中の痴漢撃退用を確認する。
「……だ…大丈夫だし!うん。第一、ウチの町は治安いいしね!」
口元を引きつりながら、リゼリは自分に言い聞かせた。
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リゼリはモノを、よく壊す。
特に仕事部屋。薬の調合の失敗でまあ大抵窓と窓ガラス、酷い時は一回の半地下の仕事部屋の上に当たる店とか、その上の彼女の寝室にも被害が及んだりする。
主に、壁…(罅割れ)。とか、これまた窓とか。
「男手、ほしいかも…。男手じゃなくても猫の手でもいいわ……」
(かと言って、別に従業員を増やすほど手が要るわけでもない。でも、店番とか居れば調合に集中できていいかもだけど…)
「悔しいけど、『何でも屋』で事が足りてる、のが事実なのよね…」
都合のいい、本当、都合のいい店なのよね~。
人員派遣もやっているし。
(店番雇うだけのお金なしいしね…)
『翡翠屋』の帳簿が火の車状態をカルバ商店の息子ならばきっとルイス伝えで知っていかもしれない。そう思うとマルスの台詞にムカムカしてきたリゼリは罐を蹴り付けた。
「マルス~~~!!いつか目に物見せてやるっ」
日が沈み、空に闇が広がる。
カンテラに火を灯し、一人、罐の掃除に没頭する。炭取りで、強引に詰まった炭をかき出す。
「意地でも直して見せるわっ」
ぐう~…。
いつもならば、夕食はとっくに取っていてじっくりと薬学の本を読んでいる時間帯。
頭の中でマルスに対する呪いの言葉を連呼する。
(フラレロ。フラレロ)
ぐう~~…。
「くう~~~っ」
全てが不幸に感じる。
空腹で力が出ず、ご飯を食べてしまえば罐の掃除などしたくなくなる。
公衆浴場でもいいや…と。
空腹の音は、さらに空腹を引き寄せるような気がする。
(お…、おなか…へった…っ)
「お風呂のためだもん!!一日のリフレッシュ。女の子なら、綺麗でいたいって思うもん!公衆浴場でジャガイモのごとくイモ洗いで身体を洗うのが耐えられないわ!!」
昔、パン屋の女将に連れたれて行った際のトラウマがひしひしと蘇る。
「もう、二度とあんなイモ洗いはお断りよ!!」
公衆浴場のイモ洗い状態も嫌いだが、もっと嫌いなのは――
(公衆浴場なんて、絶対『めんどくさい』事になるわっ…)
ぎゅっと、左腕を右手で握りしめる。
左の袖口からは手首に巻かれた包帯のような布がかすかに見えた。
唇をかみしめ、がしがしと不安を振り切るように罐を今度はタワシで強く磨く。
それから、2時間後。ふらふらになりながら煤まみれた手で、罐の中に薪を入れる。
「これで、お湯が沸く……はず。」
空腹と、予定外の肉体労働で足がふらつく。
それから、30分後。脱力と共にまったく沸かない水の張った湯船を眺める。
「……無意味な行動だったわ…」
(この水でいいから、ざばっと洗おうかなぁ……)
「初夏でも、町の水って冷たいのよね…」
「公衆浴場…行こうか…」
肩を落としてふらつく身体で浴室から出る。
「まあ、この時間なら空いてそうだし」
思い立つと、リゼリの行動は早い。
着替えと、タオルと…、呟きながら手際よくかばんに詰め込んで、暗くなった町の通りを抜ける。
宿場の方は賑わっているようだが、彼女の店の通りは静かだ。
夜の8時ともなれば店を閉め、各々の時間を過ごす。
今はその時刻からゆうに3時間ほど経っている。
現在の時刻は、午後11時過ぎ。
夜更け―こんな時間で痴漢にあったら自業自得だろうと言われそうだけど、この町は“治安”だけは良い町で酔っ払いの乱闘はあったとしても殺傷事件や変質者などの事件はこの何十年町では起こっていない。それに、痴漢など居ても薬師には薬師なりの痴漢撃退方法がある。
催涙剤、催眠剤、痺れ薬、などなど。
殺傷能力が低ければ、正当防衛が適用される。
ちなみに、公衆浴場の営業時間は―――午後十時まで。
公衆浴場の前に着き『本日の営業は終了いたしました』と言う看板を見た瞬間、リゼリは正拳突きで看板を殴る。
「ふざけんなぁぁぁ!!あたしをお風呂にいれさせろぉぉぉ」
この際、イモ洗いでもいいから!!
(うう。水風呂ですか…マルス、明日絶対下剤盛ってやるっ)
そもそも、あの男とはどうも気が合わない。
リゼリは、髪をかき上げて溜息を付く。
「……」
ふと、町の外―――郊外に視線が行く。
「確か、泉。あそこなら、地脈の影響で若干温水だったような……」
夏場に、良く子供たちの水の遊び場になっている。
(夜……だし、一人って……)
怖いかも。
ポツリと胸の中で呟いて、
籠の中の痴漢撃退用を確認する。
「……だ…大丈夫だし!うん。第一、ウチの町は治安いいしね!」
口元を引きつりながら、リゼリは自分に言い聞かせた。
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