(1)
どごーーーんっ。
激しい爆発音と、爆煙。
「げは……げほっ」
彼女は、慌てて仕事部屋から転げ出す様に逃げたした。
ブルーグレーの地味なワンピースがところどころ焦げている。金に近い茶色の髪先も哀れなことに焦げ、先がちりちりになっていた。
「―――――――――――はぁ……。おっかしいなぁ」
小首をかしげ溜息をつく。
がしがしと長い髪をかき上げて、ぼさぼさになった髪を丁寧に結い直す。
「なんで、そこで爆発するかなっ!?」
憤慨して、今も爆煙がもうもうとしているであろう仕事部屋の扉を蹴った。
娘の名は、リゼリ。
姓は無く、八年前にこのハーバル町の薬屋「翡翠」の先代薬師に拾われた。
本来のこの店の持ち主は三年前に他界し、彼女がこの店を引き継いだ。
彼女は先代より薬の調合を教わり、この店を引き継いだ。
調合の腕は良くも悪くも…。
といったところで、調合失敗における爆発事故を多々起こしている。
多少失敗もするけれど、今のところ『大事故』には至っていない。
町の住人からは、「ああ、またか」と苦笑いと呆れを向けられているが奔放な彼女は気にすることなく毎日せっせと店の在庫と新薬調合を行っている。
薬屋『翡翠』は現在――閉店の危機に瀕している。
とある事件と先代が亡くなったことにより、売り上げがガタンと下がったのだ。
ここは一発、とんでもなく効き目の良い『薬』で知名度を上げるしかない!
そう踏んだリゼリは、先代の処方箋の中の秘薬と称される『ファランシャの涙』の調合を店の在庫品を作る合間に行っていた。
いまだ、完成には程遠い。
先代亡き今経営不振で世の中の厳しさを痛感させられた彼女は、「世の中は金だ!」と叫んでどんどん間違った方向に腕を磨くようになってきた。
おもに、ぼったくり関連で。
煙も一折落ち着いたようなので、仕事部屋に戻り、ぐちゃぐちゃになった机の上を見て口元が引きつる。
「あ~あ~。さすがに、ベルアの葉を使ったのはもったいなかったなぁ…。
あれ、手に入れるのに三日くらい山の中で過ごしたからなぁ…ちっ、そのまま別の薬師に売れば元が取れたわっ」
ぶつぶつと呟きながら、爆発で吹っ飛び焦げた薬品の処方箋を拾った。ぱんぱんと処方箋を叩き、机の上のモノ――割れた器材――を床に落とし薄汚れた椅子に座る。
微かに音を立てた椅子はかなり傷んでいた。
「また、山の中に入って薬草採集…いやだぁ…」
処方箋を眺めながら、ため息は尽きない。
薬草の採取は、主に郊外の森・近隣の山に行く。貴重な薬草も、この『クライン領』の山岳地帯ならば深く入り込めば見つかる。そう、どんな『貴重』な薬草も、だ。
「薬草売りに転職しようかな…」
ぽつりとこぼれた言葉は、領都に行けば高く買ってくれるであろう薬草の売上金に苦い気持ちをにじませた。
大きく溜息をつき、気分を切り替えるために『ぱん』と音を立てて手を合わせた。
(いまは売上よりも爆発。爆発の振動で確実に、上の店の窓ガラスは振動で割れてないといいなぁ……うう、経費がかさむ~~)
前向きに考えようと意気込んで、爆発の後を考え沈む。
「ああ~~っもう!とりあえず今日は終わり終わりっ。店仕舞い!!」
早々に今日は店を閉めることに決めたリゼリは落ち込みがちな思考を何とか切り替えるために明るい声を上げた。
仕事部屋は店の下部に位置して、仕事部屋の上部が、店に当たる。
半地下の仕事部屋から店に上がり、
『CLOOS』の札が斜めに傾き、入り口のガラス戸は、ヒビが入っている。あとは、
「………!売り物が落ちてるっ」
瓶だけで、銀1枚の価値があるそれを見る。
「調合に失敗して、ガラスに日々が入って、銀一枚損した~~~~」
ちなみに、中身はタダの水。
売り物の名前は、「月光水」と言う。
タダの水を、祝福された銀の杯に入れ、満月の夜に一晩月明かりに当てて置く。
それから、祝福された瓶に入れて、売る。
お値段、銀八枚。
ぼってる、言う無かれ。――実際の価格はぼったくりなのだが…。
お客は、それを知っていて買うのだから。リゼリはきちんとレシピも明かしている。
ただ、祝福と言うと教会に行ってお布施を払って杯と瓶に祝福をしてもらう。水に月光を当てる、それが面倒だと言うお客もいれば自分でやってみたけれど「いまち」というお客もいるのだ。ちなみに、お布施は大体銅三枚ほど。
繰り返す。ぼってる、言う無かれ。
「……ううぅ、火を熾してお湯を沸かしてお風呂入って寝よぅ」
がっくりと肩を落とし、店内から居間へと向かった。
風呂場の湯船に水をはり、いそいそとお湯を沸かすために裏庭にある風呂釜に行く。外の風が、初夏だと言うのに少し冷たい。
すでに空は日が傾き始めていた。
***
どごーーーんっ。
激しい爆発音と、爆煙。
「げは……げほっ」
彼女は、慌てて仕事部屋から転げ出す様に逃げたした。
ブルーグレーの地味なワンピースがところどころ焦げている。金に近い茶色の髪先も哀れなことに焦げ、先がちりちりになっていた。
「―――――――――――はぁ……。おっかしいなぁ」
小首をかしげ溜息をつく。
がしがしと長い髪をかき上げて、ぼさぼさになった髪を丁寧に結い直す。
「なんで、そこで爆発するかなっ!?」
憤慨して、今も爆煙がもうもうとしているであろう仕事部屋の扉を蹴った。
娘の名は、リゼリ。
姓は無く、八年前にこのハーバル町の薬屋「翡翠」の先代薬師に拾われた。
本来のこの店の持ち主は三年前に他界し、彼女がこの店を引き継いだ。
彼女は先代より薬の調合を教わり、この店を引き継いだ。
調合の腕は良くも悪くも…。
といったところで、調合失敗における爆発事故を多々起こしている。
多少失敗もするけれど、今のところ『大事故』には至っていない。
町の住人からは、「ああ、またか」と苦笑いと呆れを向けられているが奔放な彼女は気にすることなく毎日せっせと店の在庫と新薬調合を行っている。
薬屋『翡翠』は現在――閉店の危機に瀕している。
とある事件と先代が亡くなったことにより、売り上げがガタンと下がったのだ。
ここは一発、とんでもなく効き目の良い『薬』で知名度を上げるしかない!
そう踏んだリゼリは、先代の処方箋の中の秘薬と称される『ファランシャの涙』の調合を店の在庫品を作る合間に行っていた。
いまだ、完成には程遠い。
先代亡き今経営不振で世の中の厳しさを痛感させられた彼女は、「世の中は金だ!」と叫んでどんどん間違った方向に腕を磨くようになってきた。
おもに、ぼったくり関連で。
煙も一折落ち着いたようなので、仕事部屋に戻り、ぐちゃぐちゃになった机の上を見て口元が引きつる。
「あ~あ~。さすがに、ベルアの葉を使ったのはもったいなかったなぁ…。
あれ、手に入れるのに三日くらい山の中で過ごしたからなぁ…ちっ、そのまま別の薬師に売れば元が取れたわっ」
ぶつぶつと呟きながら、爆発で吹っ飛び焦げた薬品の処方箋を拾った。ぱんぱんと処方箋を叩き、机の上のモノ――割れた器材――を床に落とし薄汚れた椅子に座る。
微かに音を立てた椅子はかなり傷んでいた。
「また、山の中に入って薬草採集…いやだぁ…」
処方箋を眺めながら、ため息は尽きない。
薬草の採取は、主に郊外の森・近隣の山に行く。貴重な薬草も、この『クライン領』の山岳地帯ならば深く入り込めば見つかる。そう、どんな『貴重』な薬草も、だ。
「薬草売りに転職しようかな…」
ぽつりとこぼれた言葉は、領都に行けば高く買ってくれるであろう薬草の売上金に苦い気持ちをにじませた。
大きく溜息をつき、気分を切り替えるために『ぱん』と音を立てて手を合わせた。
(いまは売上よりも爆発。爆発の振動で確実に、上の店の窓ガラスは振動で割れてないといいなぁ……うう、経費がかさむ~~)
前向きに考えようと意気込んで、爆発の後を考え沈む。
「ああ~~っもう!とりあえず今日は終わり終わりっ。店仕舞い!!」
早々に今日は店を閉めることに決めたリゼリは落ち込みがちな思考を何とか切り替えるために明るい声を上げた。
仕事部屋は店の下部に位置して、仕事部屋の上部が、店に当たる。
半地下の仕事部屋から店に上がり、
『CLOOS』の札が斜めに傾き、入り口のガラス戸は、ヒビが入っている。あとは、
「………!売り物が落ちてるっ」
瓶だけで、銀1枚の価値があるそれを見る。
「調合に失敗して、ガラスに日々が入って、銀一枚損した~~~~」
ちなみに、中身はタダの水。
売り物の名前は、「月光水」と言う。
タダの水を、祝福された銀の杯に入れ、満月の夜に一晩月明かりに当てて置く。
それから、祝福された瓶に入れて、売る。
お値段、銀八枚。
ぼってる、言う無かれ。――実際の価格はぼったくりなのだが…。
お客は、それを知っていて買うのだから。リゼリはきちんとレシピも明かしている。
ただ、祝福と言うと教会に行ってお布施を払って杯と瓶に祝福をしてもらう。水に月光を当てる、それが面倒だと言うお客もいれば自分でやってみたけれど「いまち」というお客もいるのだ。ちなみに、お布施は大体銅三枚ほど。
繰り返す。ぼってる、言う無かれ。
「……ううぅ、火を熾してお湯を沸かしてお風呂入って寝よぅ」
がっくりと肩を落とし、店内から居間へと向かった。
風呂場の湯船に水をはり、いそいそとお湯を沸かすために裏庭にある風呂釜に行く。外の風が、初夏だと言うのに少し冷たい。
すでに空は日が傾き始めていた。
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