【1】
真っ青な顔で開店前の店に飛び込んできたマルアはクロードにリゼリの事を聞き、自室にいると告げると荒々しい足取りで二階へと上がっていた。
その後、間をおかず――、緑と茶色の軍服を着た男たち数名が現れた。
マルアと同じくらいの荒々しい足取りで店内に入り、
「薬を押収しろ!」
そう、リーダー格であるだろう兵士が告げると麻袋に商品を詰め込み始めた。
「な、なにを!?」
思わず止めに入るクロードに、リーダー格の兵士は抜剣した鋭い剣の先を喉につきつけた。
「貴様が『従業員』と言うわけか」
口元を歪ませた男が、せせ笑うようにクロード見て笑う。
「貴様も来い。『事情聴取』だ――」
黒い――、どす黒い気配を感じながら、クロードは一歩後退した。
「貴方方は――国軍兵ですよね?!どういう理由でこの様な事をするのですか!!」
クロードの叫びに、兵士の一人がリーダー格の兵士に耳打ちし、
「分かった…。ここは任せよう――。『店主』のリゼリはどこだ」
「……」
「上か」
耳が良いのか、微かに物音のした二階を見てにたりと笑う。
教える気のないクロードは、それに反応することはない。
状況もつかめてはいない――が、
(国軍兵がなんで――)
「おい、手荒に扱うなよ。万が一毒が入っていたらどうする」
一人の兵士の言葉に、耳を疑う。
「…どく?」
「はっ。おいおい。知らなかったのか?この店はな、一度効能が不確かな不良品を売りつけて人一人殺してるんだ」
リーダ格の兵士のその言葉に、耳を疑う。
効能が不確か?毒?
(ただ、高額なだけじゃなく?)
「よくもまあ、そんな店に働こうと思ったんだか――、まああの小娘も流れ者だ。流れ者同士息が合ったのかもしれないがな――」
剣が煌めく。
慌ただしい足音が後方で響く。
「っ!」
マルアの声が聞こえた、多分――この足音は――、
「クロード!!」
バンっと開かれた扉から、少女が勢いよく飛びこんできた。
「リゼリさん!」
クロードの声を聞き――そしてリーダー格の兵士を見て、
「ヴェルゲンっ」
憎々しく呟く。
「よう。リゼリ――、いや、『神罰者』とでも言えばいいのか?」
リーダー格――ヴェルゲンの言葉に、兵士の一人がぎょっとしてリゼリを見た。
その言葉を知らない兵士は、気に留めつつ店の商品を麻ぶる黒に詰め込む。
クロードは、目を丸くしてリゼリを見つめた。
「っ!!アンタ!!」
「これだから、神の怒りにふれたクズは何をしでかすかわかねえんだよな。まったく――カルバもなんでこんな娘を擁護し続けるのか」
「ルイスさんは関係ないわ!!」
「そうか。なら、―――『事情聴取』だ。お前の薬で『また』人が死んだ」
「違う!!」
「いや、お前の薬から『毒性反応』が出たんだ。これは証拠だ」
リゼリに見せつけるように、一枚の紙を取り出し、そして――。
「これは、昨晩早馬でアルファート領館の館主から頂戴した『逮捕状』だ」
黄ばんだ洋紙には『国軍兵の領民の拘束を許可する』と書かれていた。
「…な…んです…て」
リゼリは、文字通り――このハーバルに流れ着いてきたものだ。
クライン領に戸籍の無い彼女の戸籍を作り、町での暮らしをさせたのは後見人のバルッシャだ。
バルッシャ亡き後はマルアとルイスが受け持っていた。
「イムルエスト、レイター、『翡翠』店主を拘束しろ」
麻袋に詰めていた兵士が立ちあがり、『神罰者』と言う言葉に反応した兵士は脅えた。
イムルエストはリゼリの腕を掴もうと手を伸ばしたが、リゼリはその手を叩き、隣の部屋の入り口に立てかけてあった迷惑な客用の箒をイムルエストに向ける。
「レスター、何をしている!」
「し、しかし――」
ヴェルゲンは脅えたレスターを怒鳴りつけながら舌打ちをし、
「生きて話が聴ければいい!切り捨てろ!」
イムルエストに命じ――イムルエストは腰に差していた剣を抜いた。
「『神罰者』がのうのうと暮らしていること自体が『罪』なんだよ!!」
その声と同時に、イムルエストはリゼリに向かって剣を放った。
***
マルアはその様を見ていた。
実の娘の様な――いや、娘と思っていた子供が切られる様を――。
「リゼリ!!」
悲鳴に近い叫び声。
そして、
金属と金属がぶつかる鈍い、音。
***
「な…」
イルムエストは標的の前に立つ、緑色の髪をした男の眼光を受け――怯んだ。
深紅の瞳――。
怒りと嫌悪と――そして、
「あまりにも、やり方が乱暴ではないですか?」
その声はとても穏やかなのに――憤っていた。
「国軍兵が、『横暴』だと聞き及んだことはありませんでした」
ギリっと剣を受け止めた、『鉄扇《それ》』が鳴る。
銀に煌めく、その鉄扇の扇面はすべてが刃に見てとれるほどの磨かれており鋭く光を放つ。
剣刃を押し、イルムエストが勢いで後方にたたらを踏む。
クロードは、庇ったリゼリが驚愕している様を『感じていた』。
何故――と。
「なんで…」
擦れる声にクロードは答えない。今は、答えるべきでない。
「まず始めに、ミランダさんが死んだのは昨晩ですよね?それでその現場にリゼリさんの薬が落ちていた」
成分表として書かれた用紙を手に取り、ざっと見る。どうせ見たところでクロードにはちんぷんかんぷんなのだが、それをリゼリに渡し、
「リゼリさん、これをどう思いますか?」
「? どうって…」
クロードの視線から逃れるようにうつむき――、そして用紙を手にし書かれた文字を追うように視線を這わせ…。
「なに、これ…」
絶句する。
「どうですか?」
「これ、…確かにあたしの風邪薬の配分だけど…これ。ここの成分。――、ラッタールが8、エルサンソ7、ミルディエットが14なんて、異臭レベルよ。飲む前に気分が悪くなるわっそれに、ミランダさんはあたしの風邪薬をよく買って飲んでる!こんな異臭レベルの薬だったら気づくわ!」
成分表をヴェルゲンに突きつけると、ヴェルゲンは鼻を鳴らし、
「だからなんだ。ミランダ・オデールはお前とは半端者同士懇意にしていたそうじゃないか。なら、お前が新薬を作る際の実験体にでもなったんだろう」
無理やりのこじ付けに、クロードはヴェルゲンを睨む。
(話にならない)
つまり、この男は犯人であろうとなかろうと――リゼリを捕らえられればそれでいいのだ。
『神罰者』に怯えたレスターを見て、
「……まず始めに。彼女のこの店の薬は『新規』で四日前に作られたものです」
突然クロードが話し出す。
ヴェルゲンに歯噛みしてたリゼリは何を言い出すの?と驚いてクロード見た。
クロードの居ていることは正しいが、半分だ。
消費期限前の薬はそのまま店頭にある。
製造日はナンバリングしていないが、使用期限はナンバリングしてある。押収した薬の使用期限から、製造日を割り出すことくらい――奴らには簡単だろう。
どうせ、帳簿も押収されるのだから。
「作られた薬は、全て『僕』が味見しています」
クロードは胸を張って言う。
その言葉にリゼリは、無理がある無理がある無理がある!と心中叫んだ。
味見をしても、結局は毒味だ。
味を下で感じることが出来、なおかつ『完製品』だと分かるのは――薬師《リゼリ》だけだ。
真っ青な顔で開店前の店に飛び込んできたマルアはクロードにリゼリの事を聞き、自室にいると告げると荒々しい足取りで二階へと上がっていた。
その後、間をおかず――、緑と茶色の軍服を着た男たち数名が現れた。
マルアと同じくらいの荒々しい足取りで店内に入り、
「薬を押収しろ!」
そう、リーダー格であるだろう兵士が告げると麻袋に商品を詰め込み始めた。
「な、なにを!?」
思わず止めに入るクロードに、リーダー格の兵士は抜剣した鋭い剣の先を喉につきつけた。
「貴様が『従業員』と言うわけか」
口元を歪ませた男が、せせ笑うようにクロード見て笑う。
「貴様も来い。『事情聴取』だ――」
黒い――、どす黒い気配を感じながら、クロードは一歩後退した。
「貴方方は――国軍兵ですよね?!どういう理由でこの様な事をするのですか!!」
クロードの叫びに、兵士の一人がリーダー格の兵士に耳打ちし、
「分かった…。ここは任せよう――。『店主』のリゼリはどこだ」
「……」
「上か」
耳が良いのか、微かに物音のした二階を見てにたりと笑う。
教える気のないクロードは、それに反応することはない。
状況もつかめてはいない――が、
(国軍兵がなんで――)
「おい、手荒に扱うなよ。万が一毒が入っていたらどうする」
一人の兵士の言葉に、耳を疑う。
「…どく?」
「はっ。おいおい。知らなかったのか?この店はな、一度効能が不確かな不良品を売りつけて人一人殺してるんだ」
リーダ格の兵士のその言葉に、耳を疑う。
効能が不確か?毒?
(ただ、高額なだけじゃなく?)
「よくもまあ、そんな店に働こうと思ったんだか――、まああの小娘も流れ者だ。流れ者同士息が合ったのかもしれないがな――」
剣が煌めく。
慌ただしい足音が後方で響く。
「っ!」
マルアの声が聞こえた、多分――この足音は――、
「クロード!!」
バンっと開かれた扉から、少女が勢いよく飛びこんできた。
「リゼリさん!」
クロードの声を聞き――そしてリーダー格の兵士を見て、
「ヴェルゲンっ」
憎々しく呟く。
「よう。リゼリ――、いや、『神罰者』とでも言えばいいのか?」
リーダー格――ヴェルゲンの言葉に、兵士の一人がぎょっとしてリゼリを見た。
その言葉を知らない兵士は、気に留めつつ店の商品を麻ぶる黒に詰め込む。
クロードは、目を丸くしてリゼリを見つめた。
「っ!!アンタ!!」
「これだから、神の怒りにふれたクズは何をしでかすかわかねえんだよな。まったく――カルバもなんでこんな娘を擁護し続けるのか」
「ルイスさんは関係ないわ!!」
「そうか。なら、―――『事情聴取』だ。お前の薬で『また』人が死んだ」
「違う!!」
「いや、お前の薬から『毒性反応』が出たんだ。これは証拠だ」
リゼリに見せつけるように、一枚の紙を取り出し、そして――。
「これは、昨晩早馬でアルファート領館の館主から頂戴した『逮捕状』だ」
黄ばんだ洋紙には『国軍兵の領民の拘束を許可する』と書かれていた。
「…な…んです…て」
リゼリは、文字通り――このハーバルに流れ着いてきたものだ。
クライン領に戸籍の無い彼女の戸籍を作り、町での暮らしをさせたのは後見人のバルッシャだ。
バルッシャ亡き後はマルアとルイスが受け持っていた。
「イムルエスト、レイター、『翡翠』店主を拘束しろ」
麻袋に詰めていた兵士が立ちあがり、『神罰者』と言う言葉に反応した兵士は脅えた。
イムルエストはリゼリの腕を掴もうと手を伸ばしたが、リゼリはその手を叩き、隣の部屋の入り口に立てかけてあった迷惑な客用の箒をイムルエストに向ける。
「レスター、何をしている!」
「し、しかし――」
ヴェルゲンは脅えたレスターを怒鳴りつけながら舌打ちをし、
「生きて話が聴ければいい!切り捨てろ!」
イムルエストに命じ――イムルエストは腰に差していた剣を抜いた。
「『神罰者』がのうのうと暮らしていること自体が『罪』なんだよ!!」
その声と同時に、イムルエストはリゼリに向かって剣を放った。
***
マルアはその様を見ていた。
実の娘の様な――いや、娘と思っていた子供が切られる様を――。
「リゼリ!!」
悲鳴に近い叫び声。
そして、
金属と金属がぶつかる鈍い、音。
***
「な…」
イルムエストは標的の前に立つ、緑色の髪をした男の眼光を受け――怯んだ。
深紅の瞳――。
怒りと嫌悪と――そして、
「あまりにも、やり方が乱暴ではないですか?」
その声はとても穏やかなのに――憤っていた。
「国軍兵が、『横暴』だと聞き及んだことはありませんでした」
ギリっと剣を受け止めた、『鉄扇《それ》』が鳴る。
銀に煌めく、その鉄扇の扇面はすべてが刃に見てとれるほどの磨かれており鋭く光を放つ。
剣刃を押し、イルムエストが勢いで後方にたたらを踏む。
クロードは、庇ったリゼリが驚愕している様を『感じていた』。
何故――と。
「なんで…」
擦れる声にクロードは答えない。今は、答えるべきでない。
「まず始めに、ミランダさんが死んだのは昨晩ですよね?それでその現場にリゼリさんの薬が落ちていた」
成分表として書かれた用紙を手に取り、ざっと見る。どうせ見たところでクロードにはちんぷんかんぷんなのだが、それをリゼリに渡し、
「リゼリさん、これをどう思いますか?」
「? どうって…」
クロードの視線から逃れるようにうつむき――、そして用紙を手にし書かれた文字を追うように視線を這わせ…。
「なに、これ…」
絶句する。
「どうですか?」
「これ、…確かにあたしの風邪薬の配分だけど…これ。ここの成分。――、ラッタールが8、エルサンソ7、ミルディエットが14なんて、異臭レベルよ。飲む前に気分が悪くなるわっそれに、ミランダさんはあたしの風邪薬をよく買って飲んでる!こんな異臭レベルの薬だったら気づくわ!」
成分表をヴェルゲンに突きつけると、ヴェルゲンは鼻を鳴らし、
「だからなんだ。ミランダ・オデールはお前とは半端者同士懇意にしていたそうじゃないか。なら、お前が新薬を作る際の実験体にでもなったんだろう」
無理やりのこじ付けに、クロードはヴェルゲンを睨む。
(話にならない)
つまり、この男は犯人であろうとなかろうと――リゼリを捕らえられればそれでいいのだ。
『神罰者』に怯えたレスターを見て、
「……まず始めに。彼女のこの店の薬は『新規』で四日前に作られたものです」
突然クロードが話し出す。
ヴェルゲンに歯噛みしてたリゼリは何を言い出すの?と驚いてクロード見た。
クロードの居ていることは正しいが、半分だ。
消費期限前の薬はそのまま店頭にある。
製造日はナンバリングしていないが、使用期限はナンバリングしてある。押収した薬の使用期限から、製造日を割り出すことくらい――奴らには簡単だろう。
どうせ、帳簿も押収されるのだから。
「作られた薬は、全て『僕』が味見しています」
クロードは胸を張って言う。
その言葉にリゼリは、無理がある無理がある無理がある!と心中叫んだ。
味見をしても、結局は毒味だ。
味を下で感じることが出来、なおかつ『完製品』だと分かるのは――薬師《リゼリ》だけだ。
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