11


【11】

 開店前の朝食後の僅かな時間、夜の遅かったリゼリはうつらうつらと自室の机に帳簿を広げて突っ伏していた。
激しく扉をたたかれ、眠気眼で扉を開けた。
多分、荒々しいこの声はマルア、だ。

「ふぁぁぁいぃ」

欠伸をしてリゼリは自室の扉を開けた。
「リゼリ、あんた!」
マルアの怒鳴りつけるような声と、彼女に力強く荒々しく肩を掴まれた。
マルアの厳しい表情を見てとったリセリの眠気が吹っ飛ぶ。
(え?なに、なに??)
驚いて固まったリゼリに、マルアは肩を掴んだ指先に力を入れた。
「っ??」
「あんた、ミランダに薬を売ったかい!?」
その言葉に目を丸くし、
「え?うん。昨日買いに来てくれて…クロードが売ったけど?」
そのリゼリの言葉に、マルアが口惜しいと言うように顔を歪め――。

「ミランダが死んだ」

そう告げた。
告げられた言葉にきょとんとした表情で首を捻る。
「え?」
何を言っているんだろう――マルアおばさんは…?
ミランダ、さんが…

「え?…、し、んだ?」

「アンタの薬の瓶が落ちていた――」
その『言葉』に、膝から――力が抜け――。
床に崩れる――。
(え?え?)
呆然とマルアを見つめるリゼリに告げる。

背筋に走る――恐怖。
脳裏をよぎる――過去《あのひ》。

「リゼリ、検死が終わったら兵士がこっちに向かってる」
「え?な、んで?」
兵士が――来る?
「……なんで、マルア、おばさん?」
「いいかい、よく聞きな」
「なんで!?なんで!??」
肩を有無言わさず掴むマルアにリゼリは暴れる。
そんなわけ――。
「あ、あたしの薬がミランダさんを殺したっていうの!?あたしの薬が?!」
喉が張り裂けんばかりに叫ぶ。

「そんなわけない!!」

並べる際には全ての薬を味見している。
間違っても、失敗作や『毒性の高いもの』は置いたりはしない。
「分かってる!そんなことあたしだってわかってるさ!アンタの『薬』は――、…いいかい。三年前とは今回は違う。三年前は出鱈目な嘘だった。けど――」
リゼリを無理やり立たせ、
「裏口からルイスの所にお行き。いいかい、国軍につかまるんじゃないよっ」
「な、んで…だって。おばさ――」
「あんたは、『前科』持ちだ――奴らは三年前の――」
マルアの言葉を遮るように、階下の店が騒がしくなる。
何かが割れる音――、何者かの怒声とそしてクロードの叫び声――。
「あ…」

商品が、薬が――、割れる。駄目になる。


あたしの、『薬』が――。


「リゼリ?!」
マルアの手から滑り抜けるように、リゼリは自室から飛び出し――店へと走った。

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あらすじ。

薬師と天使

クライン領「ハーバル町」の薬師「リゼリ」(金銭貪欲)にうっかり弱みを握られてしまった(もとい、リゼリの裸を見てしまった)
天使「クロード」(綺麗事大好き)のドタバタ繁盛記(コメディ)(?)。

※暴力表現とか流血表現とかあります。
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